一杯のチャンポン その2

新刊『人を想うこころ』~人生で大切な恩と供養の話~ が平成29年10月1日に発刊されました。

本書の一部を先読みしてもらえるようブログで公開いたします。
なぜ、供養をしなくてはいけないのか。
なぜ、恩が大切なのか。
本書で気づいてもらえるとうれしいです。


 

一杯のチャンポン その2

 

電話注文を受けた二、三日後 お昼のピークを過ぎて少し落ち着いた頃に、見覚えのない男性が店のどんぶりをもって来店しました。店の親子は「見かけない人だな。誰かに頼まれてうちの配達どんぶりを持ってきてくれたのかな」と思いました。店主の父は、どんぶりを受け取りながら「ありがとうございます。ところで失礼ですが、どちら様ですか。お名前は」と聞きました。

 

どんぶりを持参した男性は「あのー」と少し言いづらそうにしながら、ぽつりぽつりと話し始めました。

 

「二、三日前にちゃんぽんを配達で持ってきてもらった者です。忙しい時間帯にもかかわらずチャンポン一杯だけの配達をありがとうございました。チャンポンを食べた翌日ぐらいから、母は体調が悪化してしまい昨日亡くなりました。『このチャンポンは美味しいね、美味しいね』と言っていました。チャンポンをおいしそうに食べる母は幸せそうでした。母にとっては最後の食事となってしまいました。おいしいチャンポンを、ありがとうございました」

どんぶりを持ってきた男性は、深々とお辞儀をし、少し寂しそうに笑って店を後にしました。

 

店の親子は「持っていってよかったね」「そうだね」と温かな心持ちになりました。 それからは病気がちで一人暮らしのお年寄りにはチャンポン一杯でも配達をするようにしました。

 

たった一杯のチャンポンでも、人を幸せにする力があるのです。そして、たったひとつの「ありがとう」で生きる力を持つことができます。ありがとうは、人と人をつなぐ御縁の言葉なのです。

 

空海(くうかい)は、「ものごとにはすべて始めがあり、終わりがあるのは世の条理(じょうり)である。生命(いのち)あるもの必ず死滅するというのは、この世に定められた法則である。すべては多くの縁によって生じた仮の姿である」と言いました。

 

ありがとう

 

人が亡くなっていくのは世の条理であっても、良い縁によって私たちは生かされています。良い縁を生かすためには「ありがとう」を忘れないことが大切なのです。