前回は、薬剤師倫理でも説かれている「より良く生きる」とは、医療の手立てがなくなった後も希望を持って生きていくことだと思うと書きました。
薬剤師倫理における最も重要だと私が考えるポイントは、下記の部分です。
「責務の根底には生命への畏敬に発する倫理が存在するが」
特に「畏敬」という言葉を使っていることに私は注目しました。命を守ることは基本的な人権です。人権の根底にあるのは、生命に対する畏敬の念であると書かれているのです。
では、何に対して畏れ敬うのでしょう。
つづく
前回は、薬剤師倫理でも説かれている「より良く生きる」とは、医療の手立てがなくなった後も希望を持って生きていくことだと思うと書きました。
薬剤師倫理における最も重要だと私が考えるポイントは、下記の部分です。
「責務の根底には生命への畏敬に発する倫理が存在するが」
特に「畏敬」という言葉を使っていることに私は注目しました。命を守ることは基本的な人権です。人権の根底にあるのは、生命に対する畏敬の念であると書かれているのです。
では、何に対して畏れ敬うのでしょう。
つづく
人生の残り時間が少ないことを知ったとき、どのように過ごしたいですか?
私の書籍『一日一善』より「鮎が食べたいねえ」を紹介します。
九十才になる「はなさん」の例を紹介しましょう。
はなさんは膵臓がんと診断され、あと一ヶ月の命だと医師から告げられました。はなさんは入院はイヤだと断り自宅で過ごしました。はなさんは在宅医療でがんの痛みを取る鎮痛剤を使いながら過ごしました。はなさんは、ガンによる痛みのコントロールができると、体調の良い日には健康なときと同じように生活できました。はなさんは、孫やひ孫に囲まれて日増しに元気になっていきました。
体調の良いある日、はなさんは美容院に行って髪をふじ色に染めました。次に向かった先は写真館でした。はなさんは、「いつどうなるか分からないから」と遺影のために小首をかしげて写真に収まりました。
写真を撮って数日後、はなさんは「鮎が食べたいねぇ」と言って、夕食にお嫁さんに鮎の塩焼きをおいしそうに食べました。食後は大好きな歴史小説を読みながら、
「明日も朝が早いから、もう寝たら。」
と、はなさんが身の回りの世話をしているお嫁さんに声を掛けたのが、最後の言葉となりました。
はなさんは、夕食に鮎を食べた翌日、往診した医師の問いかけに応じることなく眠り続けました。
往診した医師ははなさんの孫たちを枕元に呼んで、
「おばあちゃんは天国へ行くの。耳は聞こえるからそばで大きな声で話しかけて」
と言いました。
孫たちは、大きな声で、「おばあちゃん、ありがとう」
はなさんへの「ありがとう」と「さよなら」が一つになった瞬間でした。はなさんは、「花のように死にたい」と言っていました。その言葉通りに、通夜の席で孫たちの声が響きました。
薬剤師倫理でも説かれている「より良く生きる」とは、医療の手立てがなくなった後も希望を持って生きていくことだと思うのです。
つづく
私が読んだ本で、日野原重明 著『現代医療と宗教』1997/8岩波書店 があります。
~なぜ、寺院住職である私が薬剤師の研修会で登壇することになったのか~
ありがたいことに人のつながりから
薬剤師を円満退職して10年の歳月が過ぎてしまいました。私は薬剤師として、もう復帰する気もありません。
でも、大学時代からの親友は何かと私のことを気に掛けてくれるのです。
~なぜ、私は薬剤師の研修会で登壇するようになったのか~
大学薬学部の卒業生が集まる薬友会は、年に2回程度研修会を行っていました。私もずっと案内を頂戴していたのですが、研修会に行っても現役の薬剤師ばかりで知り合いもおらず、私には肩身が狭いです。内容はある程度理解できるものの、最新情報にはついて行けません。
どうしても二の足を踏んでいたのです。
親友は、薬友会の雰囲気は以前に比べてアットホームになり、懇親会も参加してみるといいよと勧めてくれました。
せっかくなので、私も重い腰を上げて研修会に参加してみました。確かに雰囲気も以前と違っていました。誘われるがままに懇親会も参加してみました。
「やっぱり、気まずいな」と思いつつ、小さくなっていたものです。
隅っこで小さくなっている私に研修会を取り仕切る病院勤務の先生が声をかけてくださいました。
「お坊さんなんだって?」
私は少し気後れしてしまい、「門外漢ですが」と答えてしまいます。
先生はひるむことなく、「倫理について話をしてほしいよね。薬剤師の倫理はあるけれど、薬剤師が解説するには荷が重いんだよね。専門家が必要な領域だよ。お坊さんは、専門家として最適だと思うけどなあ」と続けます。
私は、一筋の光明が差した気がしました。
「お坊さんとして私の役に立てる場所がある!」
ここから、薬剤師自体に詳細に読むことのなかった薬剤師倫理について、お坊さんという視点で見直すことにしたのです。
つづく